News【イベントレポート】なかじましんや氏×眞鍋海里氏 「ユニークな映像はどう生まれる? オンライン動画 表現の発想法」
オンライン動画に瞬発力が必要とされている現代。どんな風に考えれば、ユニークかつ見られる動画をつくれるのだろうか。今回は本誌主催のオンライン動画のアワード「BOVA」で最終審査員を務めるディレクターのなかじましんやさんとプランナーの眞鍋海里さん(PARTY)が対談。(2023年11月に開催されたBOVAのキックオフイベントから抜粋してお届けします。)
右脳と左脳の反復横跳び
なかじま これまで広告は「課題解決」だといわれてきたんだけれども、近頃は課題を見つけることが重要視されているじゃないですか。今でもテレビCMではそういうお題も多いかもしれませんが、長尺の動画になると、クリエイターがどこに目を付けるかが重要視されますよね。眞鍋さん、課題を発見するにはどうしたらいいでしょうか?
眞鍋 難しいのが、BOVA のような公募賞だと、お題が決められているがゆえに、表面的に同じような課題に目をつける方々が多いこと。その大枠を捉えた上でどう新たな視点を入れるのかという、出発地点が結構大事な気がします。
なかじま 新たな課題発見の仕方をしている作品は、ポイントが高いですよね。でも逆に、「これありがちだな」とか、「これはみんな考えるよね」っていうテーマを劇的なクオリティで仕上げるのも、ひとつのやり方としては無くもないけれどもね。誰もが同じ見方をするだろうけど、描き方で差をつけるっていう。
眞鍋 そうですね。あとはもう課題を無視して「こんな面白い表現を考えたんだ、この表現を使うには、この課題なら接続できるんじゃないか」っていう逆のやり方でもいい気はしています。もちろん課題解決することが大前提ではありますが。
なかじま それって、結構あることですよね。ネタになりそうなものを思いついたら、それを何かの広告に当てはめてみると、意外と良いものになったり。邪道かもしれませんけどね。
眞鍋 ありますよね。リニアに考えつつ、ちょっと表現部分から考え直してみよう、と。その反復横跳びをしながら、ひとつの企画にまとめていけると強い表現になりそうです。
なかじま 僕はそのことを「お利口さんとお馬鹿さん」って言っていてね。
眞鍋 わかりやすいです。
なかじま 論理的にお利口さんに考えるとある程度のとこまで行くけれども、そこでちょっとお馬鹿な頭を使って自由に発想してみると、もっと人の心を打つものが発見できるよ、と。僕は俳句をずっとやっているんですけど、俳句にも「二物衝撃」というものがあって。全然関係ない二つのワードを持ってくることによって、新しい世界が開けてくる。桜だけの世界で描いていたところに突然岩が出てくるとか。その衝撃で新しい表現のヒントを生む、という考え方もあるんですよね。課題解決にとらわれない、そういう自由な表現のエネルギーは作品に良い影響を及ぼしますよね。
眞鍋 チームづくりの際も、自分がお利口さんタイプだなと思ったら、逆にお馬鹿さんタイプの人を入れたり、その逆もしかり。いろんなところで使えそうな考え方です。
なかじま そうですね。お利口さんの左脳とお馬鹿さんの右脳、その間ぐらいで何かすごいものができるんちゃうかなって気配がいつもあって。でも大事なのは、まずは「お利口さんからやろうよ」っていうこと。「真面目に考えたらこうだけど、もうちょっと変なことないの?」という順番で、異質なものとか変わったことをつくっていくっていう。プランナーの人ってみんなこれしていますよね。
CM の「入口」と「出口」
眞鍋 あと僕はもともと九州で、地方で広告をつくっていたので、制作費という制限が大きくて。そのときによく言われていたのが「広い画が必要になる企画はやめとけ」ってことです。やっぱりお金がかかるんですよね。狭い画で完結するよう、「ミクロに見て企画を考えなさい」って言われていました。
なかじま リアルな話ですね、それ。
眞鍋 でも狭い視点でもソリッドに見ていくと、表現的には実はヒントが眠っていたりもするんですよね。
なかじま 広い画って、画面を充実させるのにすごい苦労するんですね。ところが顔しか映せないくらい狭くても、そこで面白いやり取りができたりする。制限のなかで中身を詰めていけば、かなり力のあるものができると。
眞鍋 そうです。
なかじま 眞鍋さんは企画のときはどういうことに気を付けているんでしょうか?
眞鍋 最近は「広告の消費期限をどれだけ延ばせるか」を考えています。今の広告って、ターゲティングして特定の人に限られた接触でどうにか情報を伝える、というどんどん刹那的なコミュニケーションになっていっていますよね。1 度の接触でどれだけ心に残るかが重要になっているので広告自体の読後感を重要視しています。
なかじま 優れたクリエイターって、見た後どんな感じに残るのかをすごく気にしますよね。「しみじみしてほしい」とか「すごく明るい気持ちになってほしい」とかね。
眞鍋 そうですよね。あとオンライン動画の構造上、入口もやっぱり重要だと思います。流れてきたものに対して、どれだけ興味を植え付けられるかという。
なかじま つかみの部分ですかね。
眞鍋 そうですね。入口とさっきお話した読後感、出口の部分を大事にしています。なかじま 入口と出口、いいキーワードが出てきましたね。これだけを考えても中身はできませんけど、中身の題材ができたら、どんな入り方、出方をさせようか考えると。大事なことですね。
「私」以外の視点を試してみる
眞鍋 「お利口さん」な話ばかりになってしまいましたが(笑)。表現の話で、BOVAの最近の受賞作はきちんときれいに課題に着地する傾向があるんですけど、逆にちょっと骨折しながらも、無理くり着地するっていうのもありかもしれないですね。
なかじま 「もしもこういうことがあったらみんな見るよね」って観点で、突拍子もないことから始まるのも面白いですよね。もしも町中の人が全員アリになったらとか、もしも渋谷の街が亀の背中にあったらとか。どっちも面白くないけどさ(笑)。でもそういう「絶対みんな見るよね」っていうことを探してみると、きっと強いものができると思います。
というのも、今は共感性を重視してつくることがすごく多いですよね。それはもちろん悪いことではないけれども、オンラインビデオの場合はちょっとヘンテコなぐらいが目立つ感じはあるかなと思います。最近は共感を得るために、テレビCM も大体自分の生活の半径1km以内で起こっていることばかりですよね。家、会社、それか居酒屋、ちょっと外に出て公園、学校。大体そうよ、コマーシャル。
眞鍋 たしかに。
なかじま 昔は砂漠とか原始時代とか、イマジネーションの幅を広げるのがコマーシャルだったんですけども、今は「私」の視点がすごく多いんだよね。もちろん世の中の「刺激はそんなにいらんから、共感できるものが好きだな」っていうムードもありますしね。
眞鍋 課題によるとも思いますけど、でも若い頃に「視点を変えろ」と言われていたのを思い出しました。自分の視点だけで描いても広がりがないから、原始時代の人の視点で同じ商品を捉えたり、アリの視点で考えるとまた全然違うアプローチになるでしょうし。自分から視点を離すことでアイデアを生むっていうことですよね。
なかじま 名作の「宇宙人ジョーンズ」とか、まさにそうですよね。今はああいう視点の変化ってなかなかなくて、“私と近いところにいる人が私と近いことをしてる”っていうのが多いけども、逆に今だからこそ、やってみる手もありますね。