News【限定公開】縦型動画部門審査員が語る “一押し作品”の魅力と課題
現在、第13回「BOVA」の縦型動画部門の応募を受付中だ。7月に開催された「ブレーンサミット」では同部門の審査員3人が登壇し、受賞作品への視点や評価ポイントが語られた。2025年10月号でのグランプリ・ゴールド受賞作品の振り返りに続き、今号ではそれぞれの一押しの作品を取り上げ審査会での議論の裏側を掘り下げる。

多様な意見で割れた「マッハじいちゃん」
明石:グランプリとゴールドの振り返りに続いて、私たち3人の一押し作品を解説していこうと思います。まず私の一押しは、PayPayの「もっともっと多くの人がPayPayを使ってみたくなる縦型動画」という課題への応募作品「都市伝説“マッハじいちゃん”」です。そもそも私が都市伝説のYouTubeが大好きで。なるほど、都市伝説を使うかと思いましたね(笑)。本作には明石ガクト賞を贈りました。

評価したのは、「縦型動画らしさ」に向き合っている点。こうしたテイストの動画はSNS上にたくさんありますが、ひとつの戦略として「プラットフォームに馴染ませながらも、語る内容の工夫で、最終的には違和感を醸し出す」ことが大事かなと思っています。本作は新聞やフォントなどがあえてダサくデザインされていて、わりと雑多な印象から始まります。プラットフォームへの馴染み方を意識したクラフトの工夫が伝わってきました。でもちゃんと最後のPayPayがプレイスメントされるシーンだけ、異様に綺麗なんです(笑)。動画が見られる場を意識しつつ、広告としてもきちんとクライアントに向き合っている点を含めて評価しました。
一方で、上位入賞に至らなかった理由もありまして。「そもそも“おじいちゃんの会計が遅い”というのは広告としていかがなものか」など指摘が入りました(笑)。
市川:本作は、CM企画の正攻法と逆をいっているのがなるほどと思いましたね。通常は「普段はすごくスローなおじいちゃんだけど、会計は(PayPayを利用しているので)すごく早い」という流れになりそうなところを、本作では「普段はマッハなおじいちゃんだけど、会計だけ遅い」という逆の構造にしている。さらに都市伝説化することで、タイムラインで流れてきたら「この人、この後どうなっちゃうんだ?」と気になります。引きをつくるのがうまいなと思いました。
眞鍋:先ほどの「『おじいちゃんの会計が遅い』っていうのはちょっといけないんじゃないか」って言ったのは僕なんですが(笑)。ただ一方で、“残し方”はいいなと思いました。上司に以前、「広告は一言で呼ばれるようにつくるべきだ」と言われたことがあります。たとえば「auの三太郎」みたいなことなんですが。「マッハじいちゃん」は、「昨日マッハじいちゃん見た」みたいな感じで会話に乗りやすいですよね。ワードチョイスも含めて拡散性を秘めているのかなと思いました。
市川:あと審査会の中で、
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本記事のこの後のTOPICS
・ファンタジーな展開が功を奏した?
・マーケティング戦略に適したコピー
・ラストの“いい話”が逆に不要?
・作風の多様さもBOVAの特性
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ごっこ倶楽部の多田(智)さんが、「縦型動画は3回見られることが前提」と話していたのも印象的でした。動画の最後に「なんだこれ?」と思わせる引っ掛かりを入れて、もう1回最初から見てもらうとエンゲージ率が上がる、という話です。その点「マッハじいちゃん」は、動画の最後に「おばあちゃん!?」というナレーションと共に、おばあちゃんの姿が映るシーンがあるんですよね。それを私は「マッハじいちゃんだと思いきや、実はマッハばあちゃんだった」という描写だと解釈したんですが、それを踏まえてもう一度冒頭から見ると、冒頭の1カットはやっぱりおじいちゃんなんですよ。それがちょっと、伏線の回収になっていないのでは……?と気になりました。
明石:難しいですよね。あるいは「実はマッハばあちゃんも存在する」とも解釈できる気がします。この動画が世に出たら、その考察でコメント欄の意見が多分割れるので、わざと議論を起こすことで話題化させる、という手もあるのかなと思いました。
市川:たしかに。いろんな解釈ができますね。
明石:とはいえやはり上位受賞作品に比べると、ツッコミどころが多いのがわかりますよね。課題解決のための広告動画としてはもう少し詰めてほしい部分はありました。個人的にはすごく好きなので、「マッハじいちゃん2」が次回エントリーされることを祈っています(笑)。
ファンタジーな展開が功を奏した?
市川:私はジェイアール東海ツアーズの「東海道新幹線の旅行ならJR東海ツアーズ一択でしょ!と思える動画」という課題への応募作品「竹撮り物語」に審査員個人賞を贈りました。好きだったのは、やはり最後のコピー「旅ってヤツは、いつも突然おもろくなる。」ですね。このコピーは、乗車直前まで東海道新幹線の時間変更ができるというサービスの特性を、すごくうまく表しているなと思いました。
また本作では旅の途中での突然のアクシデントをフィクションで描いているんですが、クラフト的にも素晴らしかったです。スマホの主観カメラと客観カメラの切り替えも視聴者が没入できる速度でできています。

市川晴華賞を受賞した、ジェイアール東海ツアーズの課題への応募作品「竹撮り物語」。代表メンバーは田丸浩太郎さん(博報堂)、荻颯太郎さん(AOIPro.)、下航さん(シースリーフィルム)。
明石:この課題は、便益を訴求するような直接的なクリエイティブになりやすいものではありましたが、本作はそのあたりもうまく描いていましたね。
市川:たしかに、フィクションに振り切ることで無理なく没入できる動画になったんだと思います。
眞鍋:ファンタジーに振ったからこそ、旅先での出会いのワクワク感などを膨らませてくれる効果もありますよね。すごくポジティブに見ることができる作品でした。
その他の作品では、僕はシルバーを受賞した、コージー本舗の「つけまは使わない!と思っているひとに、つけま最高!と思ってもらえる動画」というお題への応募作品「10秒の魔法」が、見せ方がうまいなと思いました。縦型動画はやはりプラットフォーム上で「おっ、なんだこれ?」と思わせるのが大切ですが、本作はWebトゥーン的な構成で、縦スクロールで映像が進みます。広告ではあまりない演出で、TikTokやYouTubeで流れてきたらつい見てしまうのではないかと。審査会でも評価が高かった企画です。

シルバーを受賞した、コージー本舗の課題への応募作品「10秒の魔法」。代表メンバーは桜井奏さん(クオラス)、三須大輔さん・裏山菜月さん(AOIPro.)。
明石:最後に「実は男性だった」という描写がありますが、漫画という表現に挑戦しているからこそ、ちゃんとストーリーにオチをつけようとしているところに僕は好感を持ちました。一方で、ちょっとギミックが多く渋滞気味かなという感じもしましたね。でも何より、縦読み漫画というのはスマホならではのコンテンツフォーマットなので、縦型動画にきちんと向き合う姿勢がいいなと思いました。
眞鍋:あともう1点、個人的にグランプリ候補と思いながら審査していたのは資生堂ジャパンの「使用感の良さが伝わり、思わずアネッサを肌に塗りたくなる動画」という課題に対する応募作品、「スタートさ、アネッサ!」です。本作は「#夏のスタートライン」という言葉を使っていますが、日焼け止めのマーケティングの観点では、シーズンインのマーケットを取るというのが優れた戦略じゃないですか。その点をよくカバーできているなと思いました。
また「サッサッアネッサ♪」という音楽も耳に残ります。課題に対してど真ん中にチャレンジしていて、個人的にすごく評価が高かったです。

同じくシルバーを受賞した、資生堂ジャパンの課題への応募作品「スタートさ、アネッサ!」。代表メンバーは宮田和弥さん(電通)、松本章伯さん(太陽企画)。
作風の多様さもBOVAの特性
明石:最後に、表現の幅という意味でもう1作品、話したいですね。
市川:PayPayの課題への応募作品「片手の可能性」はユニークでしたね。「片手で支払いができる」というPayPayの特性を、奇妙なシチュエーションの数々を通じて紹介する作品です。実際のクライアントワークだとなかなかこうした作品は出てこないと思うんですが、本作は誰かの個人的な作家性から生まれた動画だと感じました。不思議な作風・ストーリーではあるんですが、サービスのメリットをきちんと盛り込んでいるのは評価ポイントだと思います。ただ審査会では、ラストが“いい話”になっているのはどうなんだろう?と議論になりましたよね。

同じくシルバーを受賞した、PayPayの課題への応募作品「片手の可能性」。代表メンバーは小林友麻さん(博報堂プロダクツ)。
眞鍋:たしかにラストの部分がなければ、シュールな世界観に対する“ツッコミ待ち”の動画になるので、視聴者がコメントを書き込むモチベーションにもなったのかなと思います。そちらの方がポテンシャルも上がってきたかもしれないですね。他にも、黒くなった画面に視聴者が映り込むのを活用して視聴者に語りかけるギミックもありましたが、それももう少しわかりやすくできたのではとは思いました。
明石:そうですね。全体を通じて、「着眼点やクラフトはすごく良いんだけど、蛇足が多い」という作品が目立っていたように思います。1分という尺の制限があると、どうしても1分を目いっぱい使いたくなりがちですが、縦型動画だからこそワンメッセージに絞るというのも手ではないでしょうか。
眞鍋:そうですね。やはり実際のマーケティング課題に対して表現の実験ができるのがBOVAの特性なので、ぜひ大胆なチャレンジをしてみてほしいです。
市川:あと実際に世に出した時の世の中の反応がある程度想像できるのもユニークなアワードですよね。これめちゃくちゃ「いいね」がつきそうとか、これは本当にバズりそう、だとか。そうしたリアルな視点が入っているアワードはなかなかないので、ぜひオリジナリティのあるチャレンジをしていただきたいです。次回もたくさんのご応募をお待ちしています。